2020年06月11日

故郷をたずねて。

この路地の奥に僕が11才まで住んでいた家が今でも残っている。
 
いわゆるボロのハモニカ長屋だ。
 
小さな家だった。
 
このあたりは当時とほとんど何も変わらない。
 
ここで僕は生まれ育った。
 
 
当時、親父とオカンはこのあたりでは若い夫婦で、その息子だった兄貴と僕は周りの人達にずいぶん可愛がられた。
 
しょっちゅうご飯をよばれたり、遊んでもらったものだ。
  
オカンは家に僕たち二人がいないと、あたりの家の玄関を覗きにいったらしい。
 
すると、どこかの玄関に決まって二人の青と黄の長靴が並んでいたらしい。
 
今日は◯◯さんち、こないだは◯◯さんち、てな具合だったろう。
 
今ではあまり考えられないご近所の付き合いがここにはあった。
 
 
 
当時に戻ったような気持ちで、住んでいた家の前まで行くと、玄関は空いており網戸が閉まっていた。
 
悩んだ挙げ句帰ろうとしたが、やはり思い留まった。
 
呼び鈴はなかったので、思いきって声を掛けてみた。
 
 
『ごめんください』
 
 
中から、ご高齢の女性とその娘さんが出てこられた。
 
突然、ずいぶん怪しい大男が来たものだから戸惑っていらしたが、
約30年前にこの家に住んでいたことなど伝えると、とても気さくに話をしてくださった。
 
 
『そうでしたかあ。ここはほぉんと良いです。』
 
 
笑顔の素敵な優しい方だった。 
2、3年前に越して来られたそうだ。
その前にもどなたか住んでらしたそうだ。
 
今は内装も綺麗になっており、もう『ボロ』ではなかった。
 
 
当時のままの玄関にはもう並ぶ靴はなかったが、オカンが迎えてくれそうな、誰かが帰ってきそうな、そんな気持ちになった。
 
このご時世にも関わらず気さくに話してくださったのはとても有り難かった。
お礼を告げ、家をあとにした。
 
 
家までの道や小さな路地や裏道がこんなにも狭く短いものだったのか。
 
町が小さくなったのではない。
 
僕が大きくなったのだ。
 
今でもここそこにあの日の声が聞こえてくる。
 
一家4人あの時のままだ。
 
   
 
 
なんとなく、なんとなく、僕を呼ぶ声が聴こえたような気がした。
 
 
振り返ると、あの小さな家の屋根の上には青空が広がっていた。
 
 
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posted by ケイスケ at 14:16| Dairy | 更新情報をチェックする